ワクチンの種類や接種時期・回数については動物病院によって様々であり、結局どうすればよいのかわからないという飼い主様が多いと思われます。以下に色々と小難しい説明をしますが、あくまでこうしてみては?という提案であり、従来のワクチン接種で問題なくきたわんちゃん・ねこちゃんに関してはそのままでよいと考えています。実際にはワクチンプロトコールに囚われず、それぞれのわんちゃん・ねこちゃんの生活に合わせたワクチン接種を行うことが重要です。
当院では2024年にWSAVA(世界小動物獣医師会)から出されたワクチンプロトコール(https://wsava.org/wp-content/uploads/2024/04/WSAVA-Vaccination-guidelines-2024.pdf)を基準に行っています。ワクチンは感染症を防ぐために非常に大切なものです。感染症にかかるリスクとワクチンの副作用のリスクをふまえて、どのような種類のワクチンをどのような回数・間隔で接種すればよいのかというガイドラインが数年おきに出されています。 (前回が2016年、直近が2024年)
・コアワクチン・・・全ての犬と猫に接種すべきワクチンだが、条件として生活スタイルや居住地、あるいは旅行先を考慮して決定する
佐賀市においては犬では犬ジステンパー・犬パルボウイルス・犬アデノウイルス・(レプトスピラ)、猫では猫ヘルペスウイルス・猫カリシウイルス・猫汎白血球減少症ウイルス・(猫白血病ウイルス)がコアワクチンとなります。レプトスピラと猫白血病ウイルスに関しては解釈の仕方や年齢が関わるので一応かっこ付きとしています。
・ノンコアワクチン・・・地理的要因や生活様式(屋内外の出入りの有無、多頭飼育環境など)により、コアワクチンに指定されていない特定の感染症に罹患するリスクがある動物に対して強く推奨されるべきワクチン
佐賀市においては犬では犬パラインフルエンザウイルス、猫ではChlamydia felisが該当します。
ワクチン接種の分類
追加接種・・・初回接種だけでは十分な免疫が得られない可能性がある場合に行う接種
幼若期の2、3回目の接種や不活化ワクチンを初めて打った後に接種する2回目のワクチンなど
ブースター接種・・・免疫記憶を刺激して抗体価を再上昇させるために行う接種
多くのワクチンの半年後や1年後の接種(従来は最初に2、3回接種をして、12カ月齢でのブースター接種が推奨されていましたが、今回の改訂では6カ月齢(26週齢)でのブースター接種を行う選択肢が提案されています)
再接種・・・低下してきた免疫を再獲得するために行う接種
多くのワクチンの3年後の接種やレプトスピラの毎年の接種など(ブースターと完全にわけることはできない)
母親からの移行抗体の影響・・・更に詳しい話をすると、母親の初乳から獲得する移行抗体が十分な量ある状態では、ワクチンの効果を著しく阻害してしまうため、早すぎるワクチン接種は効果がありません。移行抗体の量は最初がピークで徐々に減少していくのですが、どの時期にワクチンが有効な量まで減少するかは個体差がありわからないため、おそらく減少してくるであろう時期に合わせて複数回の接種が必要となります。
抗体価測定・・・実際にワクチンに反応して抗体価が必要なレベルまで上昇しているかどうかは血液検査で調べることができます(コアワクチンの3種のみ、外注検査)。ワクチンアレルギーが過去に起きたので極力ワクチンの回数は減らしたいが免疫はしっかりつけておきたい、再接種が本当に3年に1回で大丈夫なのか?などの場合に、今の状態を把握することができます。また、ごく一部にワクチンを正しく接種しても十分な免疫がつかないノンレスポンダーといわれる個体がいますが、それは抗体価を測定しなければわかりません。
現状では犬5種ワクチンや猫3種ワクチンを接種するよりも、抗体価を測定するほうが費用がかかるため、金額を抑えてしっかり予防はしたいという飼い主の方には従来通りの毎年再接種を提案しています。
以上をふまえた上で、本院で行っているワクチンプロトコールを次で紹介します。